音楽教育に音楽療法の手法を取り入れている山本久美子先生。「生きづらさを抱える児童と音楽を通したやり取りから見えたこと」を発表されていました。
障害に応じて特別な指導が必要である児童に、個別指導、小集団指導を通じて見えてきた音楽療法の可能性についてお話されていました。
今回も、第15回日本音楽療法学会関東支部地方大会の続き記事となります。
本日のテーマのもくじ
近年増えている自閉症スペクトラムの児童
山本先生は、特別支援学級や知的障害のデイサービスの現場で音楽療法をされています。様々な個性を持った児童が集まる場所ですが、最近は自閉症スペクトラムの児童が増えているそうです。
今回のシンポジウムでも自閉症の方がシンポジストとして登壇していましたね。
この方は、自閉症と日常生活、そして仕事を上手に成立させています。彼も音楽療法を取り入れていて、音楽療法に救われてたというようなことをおっしゃってました。
私たちからすると「どうしてどんな行動をしてしまうんだろう?」と思ってしまうコトがたくさんありますが、その「行動」を通じて何を伝えようとしているのか、考えるコトを大事にしているそうです。
ということで今回は自閉症スペクトラムの児童3名の事例を紹介されていました。
情緒の安定や行動を導く音楽療法
音楽には、こころを代弁してくれるチカラがあると言われています。それは「ほら、このメロディ、すごく穏やかでしょ?今はゆっくりと心を落ち着かせる時間だよ。」と音楽のメロディでメッセージを伝えるような感覚だと私は感じました。
S君という少年の話は、まるで、音楽とS君が対話をしているような感覚になりました。
S君の特徴 ・マイペースであり、自己主張が激しい傾向 ・場面の切り替えが出来ない ・興奮すると、友達に危害を与えてしまう。 S君の目標 : 音楽を通じてココロを安定させること。
まず、ゆったりとしたテンポのメロディが綺麗な曲を聴かせたそうです。するとどうでしょう。S君の表情が緩み始めました。そこから音楽を通じてココロを安定させる事を目標にしたそうです。
S君が感情的になり着席してくれないときは、オートハープを弾きながら彼の後ろへついていったそうです。すると、感情が落ち着き、着席してくれるようになったとおっしゃっていました。
ところで、私は音楽療法にオートハーブが使用されていることにびっくしりました。みなさんどんな楽器がご存知でしょうか?ちょっと珍しい楽器の部類に入ると思います。
空間認知能力を高める音楽療法で楽しく友達とも交流
音楽を通じて、みんなと同じ行動をとれるようになったり、それにが友達との交流に繋がりソーシャルスキルの向上として音楽を用いる方法もあるようです。
どうしても人と同じ事をすることが出来ない。どうやら空間の認知能力が低いようだ…。そんな問題を抱えたG君のお話が出てきました。
G君の特徴:踊りなどのレクリエーションい誘うと拒否する。 G君の目標:空間認知能力を高めること
空間認知能力が劣っていると、物との距離感をつかむ事が苦手だったり、運動やスポーツがうまくできなかったというようなことが起こります。
空間認知能力というのは、視覚や知覚などの多くの感覚器官からなりたち、右脳でコントロールされるそうです。
この性質を利用して、山本先生はカードを床にならべ、音楽に合わせて足の動き指定しました。これは、足の感覚とカードの視覚、そして聴覚を刺激して、感覚の統合を促進させたんですね。
また、音楽で動きや運動をコントロールすることは空間認知能力も高めることに繋がりそうですね。友達とも一緒にできるため、タイミングを把握しやすいそうです。
その結果、友達と一緒に踊ることができるようになったとおっしゃっていました。
音楽や音を合図として認識させて行動を促す
電車の発射音が鳴ると「閉まってしまう!急がなきゃ!」って思いますよね?デパートでホタルの光が流れたら「帰らなきゃ!」って思いますよね?それを山本先生はうまく音楽療法に取り入れているようでいた。
Y君のお話は、彼の個性をうまく活かした音楽療法だと感じました。
Y君の特徴 : 音に興味を持ちやすい(聴覚過敏)、離席が多い Y君の目標 : 離席行動の軽減
外観が珍しく、興味が持ちやすい心地よい音のする楽器を使用することで、一瞬でムードを切り替えられるよになっていったそうです。音に興味を持ちやすいため、音の大きさと質には気をつけなければならないとおっしゃってました。
音が始まると音を受け入れて着席する様子が映像で流れました。また、感情が高ぶっている時にも音楽を流すと「今は感情的になる時間ではない」と認識できるようで静かになる様子もありました。
コミュニケーションツールとしての音楽療法とその可能性
山本先生の公演を聞いて感じた事は、音楽はコミュニケーションツールになるということです。
今回の3つの事例は「言葉にしても理解してもらえない」ので、まずは「音楽に意思を伝え」そして「音楽が相手に伝える」という「通訳」のような役割をしてたように思います。その結果、周りの人との交流がスムーズにいくとうのは音楽のチカラの可能性を今まで以上に感じました。
自閉症スペクトラムの児童はとてもいろんなものに敏感です。それだけ「興味」を持ちやすいという事だと思います。その個性を活かした音楽は、普段の私たちが音楽から受け取る「ここちよさ」や「楽しさ」とは一線を引く、「音楽療法」だと感じました。
そのためには相手の個性をしっかり理解する能力も必要だと感じました。そして、それに適した音楽療法を行えるスキルも重要になってくると思いました。
山本先生は最後に、「どんな体験をし、与えてしまっているか。どれが良いという答えはない。個人個人変わってきます。言葉や文字以上に音は相手に伝えるチカラを持つということをセラピストは自覚しなければいけない。」というような事をおっしゃっていました。
山本久美子先生とは?
今回のシンポジストの山本久美子先生は、武蔵野音楽大学卒業後、34年間中学校や特別支援学校に勤務していました。そのときに音楽教育に音楽療法を取り入れていたそうです。
現在は東京藝術大学、山梨県立大学非常勤講師をされています。山梨音楽療法研究会会長でもあります。また、小学校通級学級、特別支援学級、知的障害時のデイサービスでもご活躍されているそうです。
最後に(まとめ)
最後に、私は「指導」と「楽しむ」の境界線が難しいと感じました。楽しいだけでは指導にならず、指導ばかりでは楽しめない。音楽療法と音楽学習について勉強する必要がありそうですね。最近は音楽療育という言葉も聞きます。