認知症と診断されるのは、誰でも抵抗があることですよね。しかし、記憶障害であるBPSDの症状が出るまでに受診することによって、より適切な認知症の治療を受けることができるのです。
今回も第15回日本音楽療法学会関東支部大会の続き記事です。そこで行われたシンポジウムの内容を前回に引き続き掘り下げて記事にしちゃいます!
本日のテーマのもくじ
認知症の患者に精神科医から臨床に何が出来るか?
前回の記事で若年性アルツハイマー型認知症の丹野さんのスピーチの記事を書きましたが、今回は患者サイドではなく、精神科医の小松先生の公演です。「精神科医から臨床に何ができるか?」というテーマで語られました。
「年相応」の物忘れと認知症。
精神科医や認知症サポート医の経験もある小松先生。まずは80歳のよくいる女性患者を想定して話が進められました。
[su_quote]例:80歳 女性 A子さん 「最近物忘れがひどい…」という自覚があり、心配になって初めて病院へ行きました。
しかし、医師からは「特に異常はありません」と告げられます。これが初めての受診でした。 しかし、「なんだかおかしい…」と思っていたA子さん。やっぱり認知症かもしれないと思い再度病院へ行きました。
診断の結果医師からは「年相応ですよ」と、またもや異常がないと告げられてしまいました。 その後A子さんは普通に生活していましたが、今まで通り食をしているにも関わらず、体がやせ細ってきてしまいました。
今までは、自分が「おかしいな?」と感じたらすぐに病院に行っていたA子さんですが、近頃めっきり行かなくなってしまいました。 なんだか以前と様子もおかしい…。そう気づいた息子さんが「病院に行って診察受けようよ」と提案したところ、A子さんは拒否しました。
「もともと温厚な性格なのに、穏やかではないなぁ…」と感じる息子さん。 最近では、昔よく出入りをしていた実家を思い出しているようでした。[/su_quote]
A子さんは、認知症の症状が見逃される典型的な例だと小松先生はおっしゃっていました。
CTやMRIは認知症の診断基準ではない!
認知症というと、最近はCTやMRIで撮影された萎縮した脳の画像をよく見るようになりましたよね?さきほどのA子さんの例も、「今はCTやMRIがあるんだから…」と思われたかもしれません。
しかし、CTやMRIを見て「認知症ですね」という診断基準にはならないのだそうです。
認知症の診断はあくまで問診が基本とおっしゃっていました。では、CTやMRIはなぜ必要なのでしょうか?それは、あくまで認知症の「進行度合い」をみるためのものだそうです。
問診とMRIを組み合わせたもっと正確な診断基準がまだまだ課題のようです。
BPSDになる原因は「不安」から。
認知症というと、思い浮かべるのは以下のような症状ではないでしょうか?
- 妄想が激しい
- 幻覚が見える
- せん妄状態
これらは「認知症の心理症状」とも呼ばれますよね。認知症によって不安定な心理状態が現れたり、これが原因で引き起こる異常行動のことを「BPSD」といいます。(記憶障害や言語障害などは中核症状といい、認知症機能障害の仲間となります。)
このBPSDは、薬によって改善されるケースもあるそうです。
BPSDになってしまう原因
「どうやって生きてきたか?」が、ある地点から曖昧になると認知症は疑われます。そして徐々に穴ぼこのように記憶が落ちていくそうです。
この穴ぼこを必死に埋めよう、不安になって必死に今の環境に適応しようと思えば思うほど、現実とのギャップが生じて、本人が仮想現実を作ってしまうそうなんです。
そしてこれがBPSDに繋がっていきます。
BPSDについては、以前、東大病院のセミナーへ足を運んだ時のものが記事として上がっていますので、こちらも参照してみてください。
BPSD未満の「精神的不安」を感じたら受診
A子さんのよかった点は、「あれ?私おかしいかもしれない…」と思った時点で病院へ受診しに行ったことです。(A子さんの場合認知症と判断はされませんでしたが…)
せん妄や幻覚などのBPSDの症状が出たときに精神科を受診される患者さんが多いようなのですが、小松先生いわく、それでは少し手遅れだそうです。
BPSDになる前に、日常生活で不安を感じたり鬱を感じたときに気軽に受診して欲しいと小松先生は強くおっしゃっていました。
確信が持てないので、不安の裏返しで様々な症状は出てきますが、この時点では脳はまだしっかりしているので、「この薬は合いますか?」「最近お薬飲んでていかがですか?」など本人から確実な情報が得られるようなのです。
そしてそれは適切な治療につながっていくと、小松先生はおっしゃていました。
認知症は、早期受診、早期発見がカギ
認知症の治療をより的確に行うためには、不安を感じたらすぐに受診、そして医師サイドも早期発見をすることが課題のようです。
物忘れがひどくなると、不安になって自分が認知症と診断されるのをためらってしまい受診が遅くなるケースもあるそうです。
また、あまりにせん妄や妄想が激しくなると、「精神科病院に入院させられるのではないか?」と思う患者さんも少なくないようです。
これに対して小松先生は、入院は現時点では「対症療法」(根本的な解決策ではなく、表面的な処理)にすぎないとおっしゃっていました。
そのため「認知症」=「入院」ではないそうです。
また、心理学の語源ともなっている、心理学者のプシケの言葉を引用し、「心の声はプシケの声なのではないか…」と詩的にスピーチは幕を閉じました。
小松尚也先生とは?
様々な経歴をお持ちの小松先生ですが、現在は医療法人同和会千葉病院院長、認知症疾患医療センターのセンター長をなさっています。