音楽療法士の佐藤由美子さんをご存知でしょうか?音楽療法を調べていると、必ず見かける名前です。現在、音楽療法の分野において、1番有名な方と言っても過言ではないでしょう。
これから音楽療法を目指す方、音楽療法に興味のある方は、佐藤さんの名前を覚えておいて損はないはずです。今回は、宮地楽器小金井ショールームで行なわれた、佐藤さんの講演会「音楽が記憶をつなぐ」についてレポートします。
米国認定音楽療法士の佐藤由美子さんとは?

佐藤由美子さんは日本音楽療法学会認定の音楽療法士ではなく、米国認定音楽療法士として活躍されています。佐藤さんは主に、ホスピス緩和ケアやグリーフケアを専門としています。
最近では「緩和ケア」という言葉を病院などでもよく耳にするようになりましたが、「グリーフケア」はまだまだ聞き慣れない言葉のように思います。グリーフとは、「深い悲しみ」という意味です。悲しみの感じ方は人によって違います。そのため、グリーフケアの方法も人それぞれなのです。
佐藤さんは10年間、アメリカのホスピスの現場で音楽療法を実践し、その後2013年に帰国。青森慈恵会病院緩和ケア病棟で音楽療法士として働いていました。2017年に再び日本を離れ、アメリカでの活動を再開しています。
ブログやTwitterでも積極的に音楽療法の情報を発信。ソーシャルニュースサイト「ハフィントンポスト」への寄稿も話題となりました。また、「ラスト・ソング」や「死に逝く人は何を想うのか」など多くの本をご出版されるなど音楽療法の第一線で活躍されています。
アイリッシュハープとギターで音楽療法を
佐藤さんは、音楽療法を行う際に「アイリッシュハープ」と「ギター」を使います。今回の講演会で佐藤さんは、アイリッシュハープの生演奏をしてくださいました。アイリッシュハープってなかなか聞き慣れない楽器ですよね。私たちが想像するハープよりも小さめで持ち運びに便利な楽器です。木の温もりが感じられるような柔らかい音が心地よく、とても美しい音のする楽器でした。
佐藤さんが使用されているアイリッシュハープは「クリスティーナセラピー25」というもののようです。下記サイトより音色を聞くことができます。
宮地楽器小金井ショールーム:トリプレット社 アイリッシュハープ
音楽は感情や記憶を刺激する

佐藤さんが高齢の患者さんに対して行なった音楽療法のお話がたくさん出てきた今回の講演会。患者さんのエピソードは1つ1つが大変内容の濃いものでした。なぜなら、音楽によってその患者さんの感情はもちろん、記憶までも引き出してしまうからです。
死が近づくと「聴覚」が敏感になると言われています。
緩和ケア病棟にいる高齢の患者さんは、精神的にも、肉体的にも多くの不安を抱えています。そんな状況で行われる音楽療法には、患者さんが歩んできた道を、良くも悪くも引き出すチカラを持っているのです。
記憶は「良い記憶」と「悪い記憶」の2つに分けられます。音楽によって、良い記憶を蘇らせる場合には、セラピーとして大きなチカラを発揮する音楽療法も、嫌な思い出を蘇らせた場合には、逆効果になってしまうこともあるのです。
そのため、きちんとしたトレーニングを積む事が非常に大切だと佐藤さんはおっしゃっていました。

良くも悪くも影響を与えてしまう音楽療法。きちんとした知識を持ち合わせていないと大変なことになっちゃいそうです。
同情ではなく、共感して相手に合わせる


音楽療法において、1番大切なことは「共感すること」なんだそうです。そのためには、音楽療法士の佐藤さんも一緒にココロの深い場所へアクセスし、自分自身もその感情がどんなものでも、批判をせず受け入れることが必要となってくるとおっしゃっていました。
同情ではなく、共感によって作られた信頼関係の上で音楽療法が行われることが重要なため、メンタル的にもハードな過程を経ることがあります。音楽療法士にはタフな精神力も必要とされます。
意味のある曲、回想させやすい曲は人によって違います。そのため、相手を無理やり自分の世界に引き込む演奏をするのではなく、あくまで相手に合わせて目的を達成するために音楽をツールとして利用するのが音楽療法なのだそうです。



音楽療法士さんって、カウンセラーのような役割もあるのですね。メンタルケアがとても大変そうです。。。
音楽療法士はセルフケアも大切


患者さんから、様々な影響をもらってしまうのも、音楽療法が「共感すること」の上に成り立っているからです。そのため、音楽療法士はセルフケアが大切になってきます。
特に、自分自身の問題は避けて通ることができません。「自分自身をきちんと癒し、自分の問題と向き合うことで、良いセラピストになれる」と語る佐藤さん。自分自身の成長は音楽療法士としての成長にも繋がるとおっしゃっていました。
自分と向き合う方法として、佐藤さんは日記をつけています。(佐藤さんの著書の多くは日記をベースに書かれているそうです。)さらに、ストレスがたまる前に、自然に触れたり、犬と過ごしたり、温泉に入ってリフレッシュしているとおっしゃっていました。
音楽療法によって、体力まで回復した例も


音楽療法が患者さんに与える影響はどのようなものだったのか。佐藤さんのお話に出てきた患者さんの中で、驚くべき結果を出した方がいらっしゃいます。
末期の肺がんが見つかり、全身に転移した吉田さんです。余命1ヶ月。最初に佐藤さんと会ったとき、立つことも食べることも出来なかったそうです。しかし、佐藤さんの音楽療法を受けるうち、吉田さんは徐々に笑顔を取り戻します。そしてついには、歩いて自宅に帰れるようになったのです。
吉田さんの様子は、佐藤さんの活動を特集した「テレメンタリー2016のラストソング 〜病室に響く歌〜」にてテレビで放映されました。動画を見つけることができるかもしれませんので、ご興味ある方は探して視聴してみてください。最後まで動画を見ていただくと、吉田さんがその後どうなっていくのかまで見ることができます。



もちろん、音楽療法だけのチカラではないのかもしれません。しかし、音楽療法によって吉田さんが笑顔を取り戻したのは事実です。
さらに、音楽療法が楽しみになったことで、生きがいを見つけ出せたということは、吉田さんの顔から感じ取ることが出来ますよね!
音楽療法と認知症について


認知症と音楽療法の関係については、近年非常に注目されています。音楽療法によって、認知症が予防できるかもしれないとも言われています。この公演会でも、認知症の患者さんに対して行われた音楽療法の様子が紹介されました。
混乱している状態の患者さんに、突然ギターを弾きながら歌い出す佐藤さん。すると、患者さんは音楽に集中し、歌い出しました。歌っている瞬間はとても楽しそうな様子の患者さんでした。
ただ、音楽が鳴り止むと自分自身が何をしたら良いのか、分からなく、常に混乱している様子でした。
佐藤さんの認知症の患者さんへの音楽療法で印象的だったのは、介護するご家族へのケアです。音楽療法の合間に、患者さんの状況を聞くと同時に、ご家族を気遣っていらっしゃいました。



音楽療法が認知症に有効だということが言われていますが、それでも劇的な回復は見込めないため、1番大変なのは介護されるご家族です。音楽療法の時間の癒しというのは、患者さんだけのものでは無いんだなと感じました。
音楽療法を行う上で、信頼関係を得るために「オープン・ザ・クエスチョン」でコミュニケーションを取るようにしているそうです。
はい、いいえで答えられない質問をし、相手に寄り添うのです。しかし、認知症の場合は「クローズド・クエスチョン」はい、いいえで答えられる範囲の質問をして相手とコミュニケーションをとるようです。



相手がどんな状態であるかによって、信頼の築き方も異なってくるので、それに対応する音楽療法士さんは本当にたくさんの知識が必要になってくると感じました。
【感想】音楽療法士になる方法で悩む。発展途上の音楽療法


今回は、音楽療法学会の時とはまた違った切り口で音楽療法を知ることができました。音楽療法は日本ではまだまだ発展途上です。
そのため、会場にも「音楽療法士になるにはどうしたらいいのか?音楽療法学会の資格を取れる学校に行くべきなのか、それとも音楽療法の資格はないが、音楽療法が学べる学校にいくべきなのか?」と悩まれている方もいらっしゃいました。
さらに、資格をとっても、どこで働けば良いのか?音楽療法士の金銭的な問題もあります。
1番問題なのは、音楽療法という分野が日本に広まっていないことです。先日母に「音楽療法とかやってみたら?」とふと口にしたのですが、「それってどこで頼むの?」と返されてしまい、私も回答することができませんでした。


我が家は80を超える父のため、毎週リハビリの方や看護師さんがきて父の世話をします。このようなプログラムを組む際にケアマネージャーさんとも打ち合わせするのですが、母が知らないということは、そのような提案もなかったということになります。
ケアマネージャーさんが、必要ないと判断されていたのかもしれませんが、これだけ毎日代わる代わる我が家に医療関係者が来るにも関わらず、音楽療法を頼む窓口が分からなかったのです。
まずは、音楽療法というものがあり、それが様々な分野で活用されていることが多くの方に知れ渡れば良いなぁと、改めて感じています。今回は、緩和ケアやグリーフケアの分野で活躍されている佐藤さんのお話でしたが、他にも様々な分野で活躍されている音楽療法士さんがいます。
ひよっこ音楽ライターの海月は、今後いろんな音楽療法士さんのお話を聞けたらいいなぁなんて考えています。
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