みなさんはどのように悩みや苦しみを解決していますか?また、みなさんにとって生活の中で大切にしていることはなんですか?
今回は、患者さんはもちろん、ケアする方にも、介護や福祉の現場と関係ない一般の方たちにも役に立つお話です。
行動療法の視点から「こころの声の特性に沿った耳の傾け方(ACTからの提案)」について、日本認知、行動療法学会編集委員会、ACT Japanの理事長を勤められていらっしゃいます高橋稔先生のお話をまとめてみました。
今回も、第15回日本音楽療法学会関東支部地方大会シンポジウムの続き記事となります。
本日のテーマのもくじ
QOLの視点から認知療法で支援できること
今までのシンポジウムを聞いていた高橋先生は、「障害や症状を持ちながら、なんて主体的に生きているんだろう!」と驚きを隠せない様子でした。そして、「症状の克服だけで良いのだろうか?」という疑問とともにQOL(quality of life:生活の質)向上の観点から心理療法を利用して支援を組み立てる必要があるとおっしゃっていました。
その提案として、第三世代の認知行動療法ACT(アクト)から、「深い体験をあるがままに感じよう」という観点のアクセプタンス編と「自分の価値に基づいていく生き方を探そう」という観点のコミットメント編という2つの編成で話が進められていきました。
第三世代の認知行動療法ACT(アクト)とは?
ACT(アクト)ということばをご存知でしょうか?Acceptance and Commitment Therapy(アクセプタンス アンド コミットメントセラピー)の略で、認知行動療法の第三世代のひとつとして注目されています。
Acceptanceは受け入れるという意味を持ち、Commitmentは決意や関わりという意味ですが、ここでは「一緒に目標に向かって行動する」というような意味合いが強いようです。
【アクセプタンス編】悩みや苦しみとどのように向き合えば良いのか?
あなたは「失恋」をしたとき、仕事や学業に打ち込んで忘れるタイプでしょうか?それとも徹底的に向き合うタイプでしょうか?
実は前者の方が不安は低下しますが苦しみが増す可能性があります。
認知行動療法の実験で、冷たい水の中に手をいれた場合、どれくらい耐えられるかを検証しました。他のことを考えながら水の中に手をいれた場合は40秒ほどでしたが、ただ観察して水の中に手を入れた場合は50秒と長くなる傾向にあったのです。
現在の状況を考えないようにすることは、感情を抑圧することに繋がります。観察とは、ただその状況を受け入れている状態です。状況を受け入れた方が冷たい水に耐えることができたのです。
ACTでは、感情を避けることによって一時的に不安は確かに和らげる効果はありますが、不安や辛い意識が何度も蘇り悪化させてしまうため逆効果と考えているそうです。
しかし、徹底的に向き合うだけでは辛いですよね。ACTでは心の動きに関係なく、自分の感情と距離を置くような体験をすることで受け入れつつ、悩みや苦しみを軽くする方法を提案しています。
心の動きにとらわれることなく悩みや苦しみから距離を置く方法
「ネガティブな心のラジオを放送する」ことによって悩みや苦しみから距離を置くことをACTは提案しています。文字に書いて俯瞰的に見るような方法と少し似ています。
言葉すると、心の中の思い出を刺激し様々な感情を溢れ出できます。思考や記憶、感覚や比較、認知など、あらゆることを繋げて頭がいっぱいになるため、他のことが手につかなくなり悩みの対処だけしかできなくなります。
そして重要なのは「私は〜だと思っていた」または「私は〜だった」と自分の感情や行動をしっかりと意識するとだとおっしゃってました。
ラジオ放送するようにネガティブな心を言葉にすると、自分を少し客観的に見ることができるので、感情にとらわれることなく、悩みや苦しみを遠くに置くことができるというのがACTの考えです。
【コミットメント編】自分の人生の価値はなにかを考える
ダイエットをしよう!と思ってもなかなかダイエットできないのは、「大事にしたいもの」を見失っている可能性があります。
今お菓子を食べるか、今我慢して3ヶ月後に痩せるか?
短期 | 長期 | |
お菓子を食べる | 満足する | 健康被害が生じる |
お菓子を制限する | 満たされない | 健康になる(痩せる) |
ダイエットをするときに、私たちは上記の表のことをとてもよく理解しています。しかし、ダイエットができないのは、目の前の「お菓子を食べることの満足」を選んでしまうからですよね。
高橋先生は、どこに重きを置くのが大切だとおっしゃっていました。大切にしたいものは何か?健康なのか、お菓子を食べた子による満足感なのか?
価値や大事にしたいものというのは、人生の生活の方向性を決めてくれるものです。逆らうことなく、受け入れてアクセプタンスすることが
心の声に耳を傾けながら価値を探していくことが大切だと高橋先生はおっしゃっていました。
アクセプタンス(受け入れる)ことで、心の動きには寄り添っても、心の声にはとらわれない
ACTでは「アクセプタンス」することで、心の動きには寄り添っても、心の声にはとらわれないようにするのが狙いです。逆を言えば、心の動きに寄り添わなければACTの提案を受け入れなくても良いということなのです。
ある日、高橋先生のお子さんが「パパ隣で寝て」と行ってきたそうです。「なんで?」と返したところ、「だって隣に寝て欲しいんだもん!」と返ってきました。好きなものに理由はないのです。
心の動きに素直に行動すること。そして心の声に惑わされないこと。しかし、なかなか自覚できない「大切なもの」を見つけるには心の声に耳を傾けること。
「惑わされない」と「耳を傾ける」。そして、「心の動き」と「心の声」。少し複雑ではありますが、自分の心の声がどのような性質や機能を持っているのかをよく知ることが、あらゆるアクセプタンスに繋がりコミットメントを導いてくれるようです。
高橋稔先生とは?
目白大学人間学部心理カウンセリング学科准教授でありながら、ACT Japan理事長も勤めてらっしゃいます。
その他、日本認知・行動療法学会編集委員会、日本心理学会、日本行動分析学会、日本カウンセリング学会に所属されています。
他にも様々な活動をされており、ケニア ナイロビ日本人学校への心理的支援や研究協力も行なっています。